TUGUMI / 吉本ばなな | 活字中毒

TUGUMI / 吉本ばなな

このTUGUMIという本の主人公一応「まりあ」という女の子。でももう一人の主人公と言えるのが年下の美しい従姉妹「つぐみ」です。彼女は幼い頃から病弱で、医者には短命を宣言されているため、母親や姉(陽子)に甘やかされて育ったのです。だからすごくわがままで、意地悪な性格をしているんです。で、お姉さんであるこの陽子さんがとてもいい人なんですよ。これ以上優しい人はいないんじゃないかな?って思えるくらい。だから余計につぐみの性格の悪さが目立ってしまうんです。つぐみはとても性格が悪いんですけど、自分なりのポリシーがあってかっこいいんですよ。本当は優しい気持ちも持っているんですけど、それを表現することは彼女の「嫌な奴でいる」というポリシーに反するみたいなんです。それがとても現れているなと思ったのが、飼い犬「ポチ」に対する考え方でした。


食うものが本当になくなった時、あたしは平気でポチを殺して食えるような奴になりたい。もちろん、あとでそっと泣いたり、みんなのためにありがとう、ごめんねと墓を作ってやったり、骨のひとかけらをペンダントにしてずっと持ってたり、そんな半端な奴のことじゃなくて、できることなら後悔も、良心の呵責もなく、本当に平然として「ポチはうまかった」と言って笑えるような奴になりたい。(本文抜粋)


この徹底しした考え方ってすごいですよね。つぐみはポチのことが嫌いというわけじゃないんですよ。それどころか好きだといっているんです。普通の人だったら「犬が好き」と言った以上、飢饉になっても食べないって言うと思うんです。そして、こういう風に言った人でも、実際に苦しくなった時は犬を食べちゃうと思う人が多いと思うんですよ。もしかしたらつぐみとは違って、泣いたりペンダントにしたりするかもしれないですけどね。でも、どうせ食べちゃうなら「うまかった」って言えるつぐみの方が好きだなって思います。

著者: 吉本 ばなな
タイトル: TUGUMI(つぐみ)