フィッシュストーリー / 伊坂幸太郎 | 活字中毒

フィッシュストーリー / 伊坂幸太郎

伊坂さんの13作目にあたる作品です。タイトルのフィッシュ・ストーリーはホラ話大げさな話作り話という意味を持つ単語。まさにこの本にぴったりのタイトルだった気がします。短編が4つで、それぞれは別のストーリーになっています。ですから、長編のような伊坂ワールドを堪能できるほどのパワーは感じませんでした。でも、これはこれ。相変わらず伊坂さんらしい、不思議で優しい雰囲気が溢れている作品でした。
過去の伊坂さんの作品に登場した脇役たちが登場するという点でも話題になっていますが、私は「んー、この人ってどっかで出てきたかなぁ・・・」というレベルで、唯一わかったのは黒澤さんのみというお粗末な記憶力でしたが、本書そのものは問題なく楽しめましたよ。でも、覚えているともっと楽しめたのかな?という気もしました。

「動物園のエンジン」

伊坂さんのデビュー第1短編。地下鉄にゆられながら、昔の不思議な記憶を思い出す。真夜中の動物園でうつ伏せに眠る永沢さん。彼が動物園にいるというだけで、なぜか動物園全体にエンジンがかかったみたいに嬉しそうに震える。
「サクリファイス」

頼まれた人を探して、山奥にある小暮村へ向かった黒澤。そこで古くから伝わる「こもり様」という風習にまつわる騒動に巻き込まれてしまう。
「フィッシュストーリー」

表題作。売れないロックバンドが「僕の孤独が魚だとしたら」という一節で始まる小説を歌詞にした曲を作り、謎の無音な間奏が入ったレコードを発売する。このレコードがめぐりめぐって、時代を超えてたくさんの人の命を助けることになる。
「ポテチ」

主人公は間抜けだが優しい空き巣の今村。そして、脇役はサクリファイスでも登場した黒澤。空き巣に入った家で留守電に吹き込まれた「自殺する」というメッセージ聞いてしまい、まったく他人なのに助けに行ってしまう今村。同じ日に生まれた野球選手の尾崎が気になっていて・・・。

表題作でもあるフィッシュストーリーは二十数年前、現在、三十数年前、十年後と時代が4つ登場します。キーワードは正義。この正義がいいんです。大きくてあからさまな正義じゃなくて、どちらかというと小さくて謙虚な正義。父から「正義の味方になれ」と育てられた青年がいるんです。正義の味方というと、ついつい警察官や消防士のような職業を思い浮かべてしまうのですが、彼のお父さんは違う。「大事なのは職業や肩書きではなくて、準備だ」というんです。心と体の準備ができていれば、そういう肩書きや職業がなくてもいつでも正義の味方になれる。すごい発想ですよね。私も息子たちに「正義の味方になれ」と育てようかな。


そして、小説の一節として出てくる「僕の孤独が魚だとしたら、そのあまりの巨大さと獰猛さに、鯨でさえ逃げ出すに違いない」というフレーズが、「孤独」の部分と共に形を変えて何度も登場するんです。そのひとつひとつが心に残る感じで、伊坂さんの言葉遊びはいい!と感じさせてくれます。相変わらず伊坂さん、うまいです。


タイトル:フィッシュストーリー
著者:伊坂 幸太郎
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