活字中毒 -7ページ目

アキハバラ@DEEP / 石田衣良

アキハバラを舞台にしたオタクといわれる人たちの集まりを書いた作品です。

という本だと思っていたので、ものすごくオタクな人たちがいっぱいでマニアックな話なのかと勝手に想像してました。が、それほどマニアックではありません。よくある石田さんの青春系といっても良いのではないでしょうか。夢と希望をいっぱい持った、ちょっと風変わりな若者たちの話です。


社会からドロップアウトした5人のオタクとコスプレ喫茶のアイドルが裏秋葉原でインターネットの世界に大きな変化をもたらすeビジネスをたちあげた。デザインセンスは抜群なのに極度の潔癖症で3枚傘ねの手袋越しでないと何も触れないボックス、言葉や知識の量は膨大なのにしゃべりでは吃音がひどくて会話が成り立たないページ、曲を作らせたらものすごくうまいのに原因不明のフリーズが起きてしまうと全身が凍りついたようになってしまうタイコ、腕のいいプログラマだけどアルビノ という病気のために普通に生活ができないイズム、10年も引きこもっていた弁護士のダルマ、そして美人がゆえに嫌がらせを受けたりして人間嫌いになりかけているアキラの6人だ。会社の名前は「アキハバラ@DEEP」。彼らはAI(人工頭脳)を持ったクルークという検索エンジンの開発をしていたが、それに目をつけたネットビジネスで悪名高い男に目を付けられてしまい騒動に巻き込まれていきます。

という感じのストーリーなのですが、この5人のオタクがそれぞれ個性的。みんなどこかすぐれた才能をもっているのですが、逆にどこかで欠点があるために社会に馴染むことができないんです。そんな社会に馴染めない仲間たちが1つになったときに、ものすごいパワーを発揮します。AIって確かにこれからどんどん発展していく分野で、これが検索エンジンに組み込まれたとしたら画期的なことかもしれない。(たぶん実現しないと思いますが・・・)その検索エンジンを狙って悪いやつがちょっかいを出してくるんですよ。彼らはそれぞれの欠点をお互いに補いつつ、勇ましく戦うんです。大切な自分たちの子どもとも言えるプログラムのために。そんな彼らの姿は読んでいて気持ちが良いくらい。相変わらず衣良さんの書く青年たちはいいなぁと。ちなみに、アキラは女の子ですがかなり男の子みたいな性格なのです。


ただ、欠点もあり。6人でクルークというプログラムを作るんですけどね。プログラムって素人がそんなに簡単にできるもんじゃないと思うのですよ。なので、みんなでカリカリ作ってるシーンを読んだとき「えー、イズムはともかくとして他のメンバーは何が手伝えるんだろう???」って正直思ってしまいました。もちろん簡単なプログラムを書く手伝いなら指示されれば書けるかもしれないけど、AIでしょ?一般人に手伝えるような代物ではないと思うんですよ。しかも、不眠不休とはいえたった2ヶ月で・・・。その辺がちょっぴり無理なのでは?って思ってしまいました。それともアキハバラなオタクのみなさんってそんなに普通にプログラミングが得意なのかしら・・・。ま、そんな感じです。


でも、全体的にはドキドキはらはらしながら楽しむことができましたよ。


タイトル:アキハバラ@DEEP
著者:石田 衣良
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世界がもし100人の村だったら4 子ども編 / 池田香代子+マガジンハウス編

「100人の村だったら」のシリーズ第4弾「子ども編」です。ちなみに私はこのシリーズを一冊も読んだことがないのですが、私にとって一番のウィークポイントでもある子どもというキーワードに惹かれて手にとってみました。


このシリーズは世界のいろいろな人口割り振りを、もし世界が100人の村だったらという考えの下に数字を出してきます。今回は子どもということで、世界の子どもを100人の村に当てはめて表現しています。


【本文抜粋】

世界の子どもがもし100人だったら

31人は、栄養がじゅうぶんではなく

22人は、予防接種を受けられません。

8人は、5歳まで生きられません。


障害をもっている子は

7人です。


この数字を見てどう思いますか?私は驚きました。確かに世界中の子どもたちで栄養失調で亡くなる子が多いのも知ってます。予防接種も受けさせてもらえない子がいるのも知ってます。でも、それがどのくらいの人数なのか、数字を見せられてもまったく想像もつかないんです。でも、何億人って言われるといまいち実感が湧かないくせに、100人の数字に直された瞬間に愕然とします。だって100人ってトモの保育園の子どもたちの人数とほぼ同じなんですもの。人間って身近な数字に直されないと本当の意味で理解することは難しいのかもと感じました。


この広い世界のどこかで、栄養が足りなくて死んでいく子どもたちがいる。

基本的な医療が受けられずに死んでいく子どもたちがいる。

大人の勝手な思惑で始められた戦争に巻き込まれて死んでいく子どもたちがいる。

まだ子どもなのに、大人の都合で働かされている子どもたちがいる。

まだ子どもなのに、母親にさせられてしまう子どもがいる。


この本を読むと「日本の子どもは恵まれている」と感じるかもしれない。でも、100人の村にしてしまわずに1人1人の子どもを見ると、日本にだって不幸な子どもはいる。世界中の子どもを救うことは難しいかもしれないけど、身近な子どもの不幸なら救えるのかな・・・。私にはどこまで救えるのだろうかと考えさせられました。




世界がもし100人の村だったら (4)

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書評/社会・政治




 ←こちらから献本していただきました♪

流星ワゴン / 重松清

今、まさに読み終わりました。子どもを寝かしつけてからの3時間くらい、ものすごい集中して一気に読んでしまいました。そして、読み終わったとき「はぁ、おもしろかった・・・」とため息をついてしまいました。 決して明るい気持ちで読み終える本ではないんですけど、心にとても響いてふわーっと気持ちよくなりました。そして「頑張ろうかな」って前向きな気持ちになれる本でした。この本に出てくる人物は、どちらかというとみんないい人。もちろん負の感情だってたくさん出てきてはいるんですけど、やっぱりいい人なんです。私は基本的に性善説の方が好きなので、こういう本に弱いのかもしれません。たぶんテーマは親子愛かな。


主人公の永田一雄は38歳。家庭は崩壊しているし、会社はリストラされてクビになった。「死んじゃってもいいかなぁ、もう・・・」そんな風に思いながら、夜の駅前ロータリーでたたずんでいた。そのとき、ワインカラーのオデッセイが目の前に停まり、永田を拾った。5年前に事故死した橋本父子の乗る不思議なワゴンに乗り、不思議な旅に出かけることになる。今の自分と同じ年の父親に出会い、人生の岐路となった時間と場所へ移動し続ける。人生のやり直しはできるのか、後悔は消えるのか・・・。


この前読んだ「地下鉄に乗って 」と同様に過去へ戻る話です。こちらは橋本親子の運転するワゴンに乗って時空を移動するので、「地下鉄に乗って」の主人公とは違って自分が過去に戻っていくことはちゃんと理解しているのです。時間も順番にたどっていくので混乱しにくいかも。私は地下鉄に乗ってよりも、こちらの方が好きでした。


それはさておきとして・・・。

永田が気がつかないうちに人生の岐路となった1年前から徐々に時間が流れ、なぜ今の自分が置かれている状況になってしまったのかをまざまざと見せ付けられる旅になっています。おそらくこの旅は永田にとってとてもきついものだったと思います。人間誰しも「なぜ、あのときにこうしてしまったのだろう」「なぜ、あのときにこんなことを言ってしまったのだろう」と考えることはあると思うんです。なぜ妻の気持ちが離れていってしまったのか、なぜ息子が不登校になり家族に暴力を振るうようになったのか。永田にとって大切な場所・時間へ戻されたとき、未来を知っていても何もできないもどかしさを思うと心がとても痛くなりました。未来は変えられなくても、それを自分で自覚することの大切さを見せられた気がします。文中に永田と橋本のこんな会話があります。


「私なら、なにも知らないことのほうがくやしいですけどね。」

「知らないほうがましだ。」

「被害者づらができるからですか?」


そうなんですよね。このセリフって冷たいように感じますが、でも真理だと思います。自分がひどい人生になっている原因を知らなければ周りのせいにできる。だから「被害者づら」なんですよね。知ってしまったら確かにつらいけど、知らずに生きているよりもずっと充実したものになるはず。私はそんな風に感じました。


そして、そんなつらい旅をしている永田を支える存在がチュウさん。ワゴンで旅する永田の前に自分と同じ38歳になって現れた実の父親で、しかも今は不仲になっていて仲直りもできないないままガンで死にかけている人。永田はとても父親を嫌っていて、2人はとても不仲だったようです。この作品には3組の親子が出てきます。1つは一雄とチュウさん。そして、もう1組は一雄と息子の広樹。そして最後は橋本親子。男同士だからかなぁ。愛情はあるのに、どうしてもすれ違っているような気がするんです。旅をしていく間に心が近づいてくる。お互いが隠していた気持ちが明らかになってくる。でも、結局は過ぎてしまった過去をやり直すことなんてできないのが切ない。


チュウさんは本当はとても息子を愛していたんです。現実にはその愛はうまく伝わっていなかったのに、不思議な旅ではその愛が随所で伝わってきます。

「ええ子じゃ、わしの息子なんじゃけん、ええ子に決まっとる」

こう言い切れる親って幸せだろうなって。

そして、こう言い切ってくれる親がいる子どもって、たぶんとても幸せだと思う。


タイトル:流星ワゴン
著者:重松 清

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わたしを離さないで / カズオ・イシグロ

名前は聞いたことがあった「カズオ・イシグロ」さんの作品の初読です。ちなみに、彼は日本人だけどイギリス育ちだそうで。この本も翻訳されたものが出版されています。名前は日本人なだけに、なんか不思議。(^_^;)


優秀な介護人キャシーは提供者と呼ばれる人たちの世話をしている。キャシーが生まれ育ったのは「ヘールシャム」という施設。そのヘールシャムで同じ時を過ごした友人でもある提供者たちをケアしてくうちに、ヘールシャムでの不思議な日々を思い返します。癇癪持ちだったトミー、思わせぶりなセリフでみんなの気を引くルース、保護官と呼ばれる先生たち、謎の人物マダムのこと、外部から完全に遮断された施設の中で育った彼らに待ち受ける将来。キャシーと、その愛する人たちの悲しく切ない話です。


彼女の回想によってヘールシャム、介護人、提供者などの謎が明らかになっていく流れになっています。読み始めたとき「介護人?提供者??なんだそれ???」と思いながら読んでいたのですが、次第にそれらがいったい何を指しているのかを知ったとき愕然としました。そして、背中がゾクゾクしました。まるで現代のどこかにある施設の話をしているように感じますが、まったく違います。この本はカズオ・イシグロ氏の想像の世界。そして、私には想像もできない(したくもない)恐ろしくて悲しい想像の世界でした。それらの事実が淡々と語られていく様子は、哀しくて切ない。でも、そんな切ない人生の中でも、自分自身の人生を一生懸命生きているキャシーが愛しくなりました。


淡々としていて地味な感じの作品ですが、本当にすごいです。作中の中ほどで明かされる真実よりも、キャシーやその仲間たちのほのぼのとした生活や、彼女たちの思いをを味わいながら読むといいと思います。この本は本当にたくさんの人に読んで欲しいです。


タイトル:わたしを離さないで
著者:カズオ イシグロ
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赤い指 / 東野圭吾

直木賞受賞作「容疑者Xの献身 」を書いた後の最初の1冊です。この本がデビューから数えて、ちょうど60冊目にあたる本らしいですね。


主人公はさえないサラリーマンの前原昭夫。家族は妻、中学生の息子、そして痴呆がすすんだ実の母の4人暮らし。そんな一家に事件が起きた。身内が殺人事件を起こしたとき、その家族はどうするのか・・・。刑事・加賀恭一郎のシリーズです。


さっそくですが。。。

この夫婦はとても愚かだと思う。特に夫の昭夫は最悪。何かトラブルが起きるたびに見ないふりをしてうやりすごす。できるだけ良いところにだけ目を向けて、あとは見なかったことにしておく性格なんです。読み出してすぐに犯人はわかってしまうので書きますけど、この家の長男が殺人をおかすんです。そう、中学生の長男ね。でも、この夫婦は息子の癇癪をなだめることに必死で、殺人をした息子を起こることもできない。昭夫自身も息子をちゃんと叱ることもできないし、妻がバカみたいに息子を甘やかしていても「自分は育児に参加してこなかったから・・・」とかいって、わけのわからない理由をたてにして見逃すんですよ。こんな夫婦、最悪。もうね、読んでいて腹がたって仕方なかったんです。痴呆のすすんだ母を妻が冷遇しても、なにひとつ文句言わないなんておかしすぎますよ。(まぁ、この妻も嫌なヤツなんですけどね)


とまぁ、物語の夫婦に腹をたてても仕方ないので、ここらで感想を。

この本がなぜ赤い指というタイトルなのか。なぜなら、これがキーになるから。東野さんの作品は中ほどでたっぷり伏線はって、最後にどーんと驚かせてくれるのがおもしろいと私は思っていたんですけど・・・。残念ながらこの作品はそれほどでもなかったです。なんとなく途中から結末が見えてきていたし、うむむむーって感じでした。あまりに愚かな夫婦に腹を立てながらも、結末が見えてしまった私にはイマイチ物足りない作品のように感じました。受賞後1作目にしては、気合いがたらないと思ってしまったのは私だけでしょうか・・・。


辛口コメントになってしまってごめんなさい。

タイトル:赤い指
著者:東野 圭吾
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