活字中毒 -39ページ目

東京タワー / 江國香織

2005年1月から黒木瞳さん、岡田准一さんの2人が主役として映画化された作品です。映画のタイトルも「東京タワー 」で原作と同じです。

年上の女性に恋焦がれる大学生のストーリーです。
詩史と透、耕二と喜美子。どちらも女性が年上かつ不倫の恋。ただ、1つ違うのは、詩史と透は精神的なつながりを大切にしたもの、耕二と喜美子は肉体的なつながりを大切にしたものというところです。どちらが良いとかそういう問題ではなく、気がついたら落ちてしまっていた方法の違う恋愛なのです。ところが愛する比重が変わってしまうと、やっぱりうまくはいかず・・・。好きなのにダメになってしまうんですよね。恋愛って、どちらか一方が重たくなってしまうと、受け入れるほうの限界を超えたとき壊れてしまう。

江國さん独特の文体で、詩史と透の恋愛はサラサラと流れていくような大人の雰囲気の素敵なものになっています。ただ、透の恋愛は私としてはちょっと受け入れにくいような・・・。だって、詩史が好きなものを愛し、自分のものとして受け入れる。そして、それだけに浸り、いつかかってくるかわからぬ電話を家で待つ19歳の男の子ってどう思います?私が詩史のような大人の女性になりきれていないせいでしょうか。そんな100%受け入れモードの男の子がかわいいとか、いとおしいって思えないんです。詩史の大人の女性らしいずるさというのも気になるところ。だから、どちらかというと耕二と喜美子の方が理解可能。ただ、こちらの恋も喜美子には夫、耕二には彼女とお互いにパートナーがいるあたりが微妙。

江國さんの作品ってとても好きなものが多いのですが、今回はいつものように「あぁ、好きだなぁ」という感じではありませんでした。江國さん自身が結婚し、生活が変わったことで作風も変わったのではないかと思います。(過去の作品は相変わらず読み返しても好きだと思えるので・・・)
私がどちらかの年齢にもっと近ければ共感できる部分もあったのかもしれないのですが、きっと中途半端だったんでしょうね。結婚して4年目なので、結婚というものに対して希望もありますし。(^_^;)

「私、自分の人生が気に入ってるの。そんなに幸福っていうわけじゃないけれど、でも、幸福かどうかはそれほど重要なことではないわ」

「一緒に暮らしてはいなくても、こうやって一緒に生きてる」


こんなセリフが出てきてしまう結婚って、不幸せですよね・・・。
そんな風に思ってしまうのは、私だけ??

著者: 江國 香織
タイトル: 東京タワー

剣客商売 / 池波正太郎


時代物ってどちらかというと根強いファンか、抵抗があって読めないという人に分かれてしまいがちだと思います。そういう私自身も時代背景とかがわからないと、読んでも楽しめないんじゃないかと心配で手をつけていなかったのです。うちのダンナサマは池波正太郎さんのファンなので、時代物の小説がたくさん本棚に並んではいるんですけどね。

活字中毒な私、読む本がなくなってついつい手を伸ばしてみました。

この剣客商売はもうすぐ60才(ストーリー中に60歳になってしまいました)の秋山小兵衛とその息子大治郎の話です。時代はちょうど江戸中期の田沼意次の頃。剣の道を究める小兵衛と大治郎が悪いやつらをバタバタと倒していくという単純なもの。

この小兵衛と大治郎がいいんです。もちろんこの剣客商売にでてくるほとんどの人物が、いい味をしているんです。それぞれ個性的で、人情味あふれていて。なかでも小兵衛なんて普段は好々爺 といった感じで、読んでいるととてものんびりした雰囲気が伝わってくるんです。それなのに、いったん悪事を見つけて剣を持つとものすごく強い。あっというまに気持ちよく倒してしまうんです。

この剣客商売を読んでいる時の、人間以外の魅力は食べ物です。よく作品中に食べ物の話が出てくるんですが、それがまたすごくおいしそう。きっと池波正太郎さん自身が食べることが好きなんでしょうね。描写が上手で食べてみたい!と思わせてくれます。

私みたいに「歴史は苦手」という人でも、まったく抵抗なく読めると思います。江戸時代の人々の暮らしぶりも細かく書いてあり、「へ~」「ふ~ん」と驚いている間にあっという間に読み終わってしまいますよ。全部で16巻+番外編2巻の18巻あるのですが、あっという間に全部読んでしまいました。これ、おすすめです。

著者: 池波 正太郎
タイトル: 剣客商売

あやし ~怪~ / 宮部みゆき

宮部みゆきさんと言えば現代物というイメージが強いと思うのですが、時代物もすごくお奨めな作家さんです。この「あやし 」という作品は江戸時代を舞台にしたとても怪しく不思議な出来事の物語です。

このあやしで取り上げられている出来事はいわゆるホラーというのとはまた違うと思うんです。いわゆるぞーっとする感覚。でも、終わるとなぜか寂しさというか悲しさみたいなものが漂っているんです。恐ろしいのは物の怪だけとは限らなくて、人間の恐ろしさみたいなのもありますが、人情あふれる温かみのある登場人物によって魅力的な作品にしあがっています。

9つの短編が収められているのですが、私が一番気に入ったのは「安達家の鬼」です。恐ろしいのだろうけど、なぜか優しい気持ちになれます。

著者: 宮部 みゆき
タイトル: あやし ~怪~

床下の小人たち


イギリスのとある一軒家の床下に暮らす小人一家(ポッド・ホミリー・アリエッティ)のお話です。この小人たちは自分たちのことを「借り暮らし」と呼んでいます。その名のとおり、上に住む人間たちから生活に必要なものを借りて暮らしているからです。ただし、人間に見つからないようにこっそりと。ところがある日、借りに出たアリエッティはその家に住む少年に見つかってしまいます。次第に生活が変わり・・・。


彼らは食べ物はもちろん、衣類を作るための布、生活に必要な石鹸や食器・家具など、すべて借りて暮らしているのです。小人ですから、もちろん普通サイズの物は必要ありません。人間にばれない程度にこっそり少しだけいただく(彼らの言葉をかりると借りて来る)わけです。家具や食器はドールハウスのものを持ってきたり、指貫や木の実の殻をコップや器として使ったりしています。古い手紙は壁紙に化け、吸い取り紙は絨毯に、玄関マットの毛を引っこ抜いてタワシを作ったり。大きなジャガイモをハサミで切り取りながら料理に使ったりするシーンは、サイズを思うと思わず微笑んでしまいます。

しかも彼らは「人間は私たちが借りるためにいるのよ!」という考えなのです。ちょっぴりおかしいですよね。でも、もしかしたら本当にいるのかもしれない。だって、気がつくとなくなってる小さなものって確かにあるから。我が家はマンションなので借り暮らしの小人たちはいないかもしれません。でも、古い一軒家を見かけると「こんなところなら借り暮らしの小人たちがいそうだなぁ・・・」なんて考えたりします。

そんな借り暮らしの小人たちの生活を覗き見したような気分になれる本です。小学生の高学年くらいになったら楽しめるのではないかな。
ちなみに、シリーズは全部で5作。

 床下の小人たち
 野に出た小人たち
 川をくだる小人たち
 空をとぶ小人たち
 小人たちの新しい家

2作目以降はアリエッティ達の家族以外にも小人が登場しています。本当に夢のあるお話ですよ。大人もぜひ読んでもらいたいです。


著者: メアリー ノートン, Mary Norton, 林 容吉
タイトル: 床下の小人たち

神様のボート / 江國香織


「必ず戻ってくる、そして必ず葉子ちゃんを探しだす。どこにいても。」そう言って消えた彼を待つために神様のボートに乗ってしまったママ(葉子)と、その子供である草子のお話。「パパに会えるまで1つの土地に馴染んではいけない」「パパのいないところは私たちの馴染むところではない」と、この親子は引越しを繰り返しているのです。草子は生まれてから一度もパパに会ったことがありません。ママが語るパパのイメージやお話だけ。10歳になり友達もできて、次第に「馴染む」ということがしたくなってきた草子と、彼に会えるまでその場に馴染みたくないママとの間に少しづつ溝ができてきてしまいます。



10年以上も昔に消えてしまった人に会うため、転々と引越しを続ける(彼女たちはそれを旅がらすと呼んでいるのですが)という生活はとても大変なのではないかと思うのです。私自身に置き換えて考えれば、その場所に慣れるということはとても居心地のいいもののはずだから。馴染んで親しみがわき、知り合いも増えて生活が楽しくなる。そんなときに、またママから引越しを言われてしまう草子。せっかく親しくなった友達も、引越しとともに箱の中。

この箱の中というのは葉子が娘に言うせりふなのですが、思い出はすべて箱の中にしまっておく。忘れるのではなく、ただ箱の中に入ってしまうだけなのです。「事実は消えない。だから何一つ失わない。」という意味があるそうなのですが、小学生くらいの女の子にとって「箱の中に入れてしまう」には悲しい別れもあるわけですよね。せっかくできた親友も1年たらずですぐに分かれなければいけないんです。しかも親の都合で何度も。

彼とも思い出がある葉子は、もうすでに完成した大人だしそれでも問題がないのかもしれません。でも、まだまだこれからたくさんの人間関係をつくっていかなければいけない草子にとっては不適切な生活だと思うんです。こんな生活を娘に強いてまで神様のボートに乗り続ける葉子を「狂気」ととるか、「純愛」ととるか。私にはここまでの純愛はできそうにありません・・・。

一歩間違えるとおかしな女性になりかねない葉子を、とても素敵な女性に描いています。江國さんの透明感のある文章のおかげかな?とてもさらっとした読み心地でした。

著者: 江國 香織
タイトル: 神様のボート