活字中毒 -2ページ目

悪人 / 吉田修一

この本は私にとって吉田修一さんの2作目です。1作目はパーク・ライフ という作品でした。最初に読んだパーク・ライフと、この悪人という作品は、だいぶ印象が違いましたよ。なんか違う人が書いたみたい。個人的には悪人の方がおもしろかったです。
保険外交員の女性が殺された。捜査線上に浮かぶ男。彼と出会ったもう一人の女。逃げ続ける2人。加害者と被害者、それぞれの家族たち。なぜ事件は起きたのか、悪人とはいったい誰なのか・・・。

複数の人の視点から描かれたこの作品は、くるくると回りながらあちこちの目線から物語が進められていきます。主な登場人物は5人かな。殺された女性、その女性に関係する2人の男性、そしてそのうちの1人の男性と関係のある女性。そして殺された女性の父親。それぞれの感情を絡めて物語を読んでいくと、ずしーんときます。この本は結構すごいと思います。おそらく東野圭吾さんが好きな人なら楽しいと思えるのではないでしょうか。ちょっと似てるかなぁと私は思いましたよ。


善人だけど、犯罪者。

犯罪はおかしていないけど、悪人。

本当に悪いのはどちらなのか・・・。


何が善悪なのか、とてもしみじみと考えさせられた1冊でした。


タイトル:悪人
著者:吉田 修一 >>Amazon >>楽天 >>7&Y icon

陰日向に咲く / 劇団ひとり

なんで表紙も背表紙も劇団ひとりさんの写真なんだろう・・・。本がそんな感じだから、てっきり私はエッセイかと思ってました。だって、芸人さんだし。でも、違いましたよ。彼は単なる芸人さんではなく、ちゃんと作家さんでした。予想以上におもしろくて、驚かされました。ただの暗いお兄さんかと思ってたのになぁ。 しかも、この本が処女作なんでしょ?そんなことちっとも感じさせない筆力で、私をぐいぐいと引き込んでくれました。ラストにはちゃんとくすっと笑いたくなるオチを入れてるあたりも、ひとりさんだなぁって思わせてくれます。

この本には短編が5つ入ってます。

◆道草

あの場所で半年前、あの青年と出会うまで、私はホームレスだった。

仕事でプレッシャーを感じ、憧れのホームレスになった主人公の話。

◆拝啓、僕のアイドル様

あまり売れていないマイナーアイドルミャーコのファンな主人公。自分の生活を削ってでも、憧れのミャーコに贈り物をしたい。でも、実際はミャーコの前に立つとモジモジしてしまうだけの地味なファンで・・・。

◆ピンボケな私

二十歳、フリーター、女、A型、高卒、茶色のショートで、百五十八センチの細め。自分のことを語るときにこのくらいしか言えない主人公。夢は一応カメラマンということになっているけど、それすらも自信がなく・・・。

◆Over run

ギャンブルにはまっている主人公。キャッシングをくり返し、あっというまに負債の山。一発逆転を狙ったけれど・・・。

◆泣き砂を歩く犬

東京に行けばきっと変わると信じていた鳴子。売れない芸人に恋してしまった鳴子。人生そんなに簡単に変わるはずもなく・・・。

どの主人公もどちらかというとイマイチな人生を歩んでいる。普通の人とはちょっと違う思考だったり、世間的に普通といわれる人のラインから若干はみ出したりしてる人たちの集まりです。トホホな感じがめいっぱい書かれているのに、なぜか愛しくなってしまうような雰囲気が漂っている。おそらくひとりさんがそういう人たちに対して、優しい目を持っているからなのかな。とても簡単に書いたように思える文章なのに、時々惹かれる言葉が入ってたりして。ひとりさんの感性は好きだなと思わせてくれました。


ちなみに、どれも別々の短編に思えるのですが、実は最初からちゃんと読んでいくとつながっています。なので、1話から順番に読むことをおすすめします。よかったですよ、この本。


タイトル:陰日向に咲く
著者:劇団ひとり
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クジラの彼 / 有川浩

クジラって、あの海のクジラかな?って思っていた私。でも、全然違いました。この本はラブストーリーで、しかも恋するのはみんな自衛官。ちょっと特殊な恋愛事情かもしれませんが、どのストーリーも有川さんらしいドキドキ・ワクワクする女の子心をくすぐるような恋がいっぱい詰まっていました。 自衛官のイメージって固くて、真面目で・・・といった感じだったのですが、恋をしたらみんな同じ。様々なことで悩んだり、喜んだり、幸せになったりするんですよね。ちょっとシチュエーションが違うだけで・・・。
相変わらず、有川さんの恋の話は私の心をくすぐってくれました。

◆クジラの彼

合コンで出会った潜水艦乗りに恋してしまった聡子。付き合い始めたはいいが、潜水艦の航海スケジュールは家族にも言えない防衛機密。だから、気がついたら連絡が取れなくなっていて1ヶ月も2ヶ月も音沙汰なしなことが当たり前というきつい状態。

◆ロールアウト

航空設計士の絵里は航空自衛隊の次世代機開発チームに入ることになり、トイレを巡る彼女の戦いが始まった。

◆国防レンアイ

生意気で居丈高なくせに、ふと気を緩ませるとめちゃくちゃ可愛い彼女は女性自衛官。同期の腐れ縁で8年も彼女を見つめ続けていた伸下。パシリ扱いも気にせず、ひたすら彼女を待ち続ける。

◆有能な彼女

彼女は有能で魅力的な年下の防衛技官。かたや、自分にいまいち自信がもてない潜水艦乗りの夏木。下艦するといつも「彼女はまだ待っていてくれているのか」と不安な気持ちで電話すらかけにくい。ましてや結婚なんて・・・。

◆脱柵エレジー

陸自に入隊してから、高校の時から付き合っている彼女となかなか会えなくなった。彼女が電話ぐちで会いたいと泣いている。あのフェンスを超えれば彼女に会えるはず!脱走するか・・・。

◆ファイターパイロットの君

春名高巳の奥さんは日本でもまだ存在が珍しい空自の女性ファイターパイロット。強くてきれいでかわいい君を、僕はどうやって守ってあげたらいいんだろうか。

どれもすごくいい!と私は思います。私はクジラの彼に出てくる冬原さんが好みのタイプです。あー、でもファイターパイロットの君に出てくる高巳も捨てがたいなぁ・・・。どの男性も優しくてたくましくて、いいんです。たぶんこんなタイプが近くにいたらドキドキして、恋しちゃいます。
ただ、クジラの彼、有能な彼女、ファイターパイロットの君の3編は、別作品に出てくる主人公たちなんだそうです。クジラの彼と有能な彼女は「海の底」に出てくる2名、そしてファイターパイロットの君は「空の中」に出てくるんです。私はまだどちらの作品も読んでいなかったので、先にそちらを読んでからにすればよかったかなぁと思いました。まだどの作品も未読でしたら、先にこの2作品を読んでからこの本を読むことをオススメします。

タイトル:クジラの彼
著者:有川 浩
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14歳 / 千原ジュニア

ふ~ん、千原ジュニア って誰?という私がなぜかこの本を手にとったかというと、本の帯を東野圭吾さんが書いていたから。そして、興味を持ってからネット検索したらお笑いの人だって・・・。ちっとも知りませんでした。そして、14歳の時に彼が引きこもりをしていたというストーリーだと知ってちょっとびっくりしました。なんとなく私の勝手な想像で、お笑い芸人の人たちって友達も多くて明るいっていうイメージだったからです。でも、彼は違う。もし、この本の彼が本当の彼だとしたら、ものすごく内向的で暗い気がしますよ。そして、心が結構強い。きっと、人を笑わせる才能と性格の明るさって別物なのかもしれない。

主人公は千原浩史14歳。頑張って進学校に入学したものの学校に行くのが嫌になって、引きこもりへ。パジャマを着て一日を自分の部屋で過ごす日々が始まった。時々外へ買い物に行くけど、それもパジャマのまま。パジャマ姿を不思議がる人の視線にも慣れた。


僕は何になるんだろう。
僕は誰になるんだろう。
僕はどうなるんだろう。
僕はどうするんだろう。


そんな葛藤を抱えたまま、14歳の少年は部屋で苦悩する。

みんなと同じであることが嫌だ。自分がすすむ道、自分がいるべき場所を探して悩みはじめた彼の葛藤がヒリヒリと痛いほど伝わってきた。そして、彼の両親(特に母親の立場)の苦しみや悩みも伝わってきた。どうしてうちの息子はみんなと同じじゃないんだろうと悩む母、どうしてみんなと同じじゃなきゃいけないんだろうと苦しむ息子。どちらの気持ちもわかるから痛い。言葉の端々から、「なぜ」という強い思いが伝わってくる。

このくらいの年齢の子どもって、確かにこういう「どうしてみんなと同じじゃなきゃダメ?」っていう疑問を持つことが多いと思うけど、この千原少年はその気持ちがとてつもなく強いんだと思う。普通はどこかで折り合いをつけて、なんとか今いる場所で戦っていくんだろうけど・・・。きっと、無理だったんだろうな。居場所が見つけられるまで、やりたいことが見つけられるまで・・・という気持ちがすごかったです。今の彼のお笑いという場所が見つかって本当によかったと感じた。そして、彼におばあちゃんや兄ちゃんという心の支えがいてくれて本当によかったと感じました。千原ジュニアさんのこと、ちっとも知らないくせにちょっと好きになったかも。というか、14歳の時の千原少年に会って「大丈夫だよ」って言ってあげたい気持ちにさせられました。


ここ で14歳発売のインタビュー記事見つけました。


タイトル:14歳
著者:千原 ジュニア
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美丘 / 石田衣良

タイトルにもなっている「美丘」は女性の名前。この本の登場人物で、とてつもないパワーと個性をもった女の子です。そして、自分の死が間近に迫っていることを知っているからこそ、光輝くようなパワーを発揮しています。表紙だけ見ているとヌードだし、男女からみあってるし・・・そういう関係の本かな?って思わせるところもありますが、これは恋愛小説。でも、たんなる恋愛小説ではなくて、死というエッセンスが加わっているから短くて濃厚な恋の話です。
大学2年生の太一は大学の同級生6人ほどのグループの中心にいて、そのなかの麻里という子とつき合っていた。麻里はルックスも性格もよく、皆の憧れの的。ある日、太一の前に強烈なキャラと奔放な行動力を併せ持つ美丘があらわれる。彼女の奔放な性格が原因でトラブルになりがちな美丘だが、太一はその嵐のようなエネルギーに次第に魅かれるようになる。太一から告白され、初めて結ばれた夜。美丘は交通事故の手術で移植された硬膜からクロイツフェルト=ヤコブ病 に感染していて、いつ発症してもおかしくない身であることが判明する。残りわずかとなった美丘の生命を前に同棲をはじめる二人。太一は美丘がこの世に生きていた証人になろうと決意するが……。
美丘は自分がいつ死んでもおかしくないという体だということを知っている。だからこそ限りある命を無駄にできないと、必死で生きようとしている。でも、周りから見るとそれはあまりに強い個性と奔放さで奇妙な子と思われてしまうんです。そんな彼女の強い個性に太一は心を奪われて、次第に好きになっていく。でも、その恋は短かった・・・。自分が美丘のように「いつ発病して死んでもおかしくない」という状況におかれたとき、こんな風に強く生きていくことができるだろうかと真剣に考えてしまいました。美丘の強さは自分の弱さを知っているからこそ。本当は恐い。でも、恐がっているだけでは人生がもったいないと考えられる美丘の強さに惹かれました。

それにしても、この表紙の女の子。背中からお尻にかけてのラインが本当にキュート。こんなボディーが欲しい♪うらやましいです。(^_^;)

タイトル:美丘
著者:石田 衣良
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