活字中毒 -4ページ目

無銭優雅 / 山田詠美

1年ぶりの新作(エッセーは除く)。感想は「やっぱり詠美さんって素敵だぁ・・・」ってところでしょうか。日常、誰にでもありそうな恋を書いているのに、なんだかうっとりしてしまう。今回の作品は昔の作品に比べて、ぐんと身近な雰囲気になっています。なんせ中央線沿線ですから、私の生活区域。身近なんてもんじゃありません。しかも、どちらかというと熱血ポンちゃんのエッセーを読んでいるような語り口なので、うっかり詠美さん自身のリアルな恋愛を書いている?って思ってしまいそうなくらいです。


42歳の栄と慈雨の恋。年だけはとったけど大人になりそびれてしまった2人が、お互いを最大限に甘やかしながら恋を満喫している。死ですら彼らの恋のスパイスでしかない。「いつか死ぬかもって思うと、うっとりする。おまえのこと、すごく大事にしたくなる」「どうせ死ぬなら、一緒に死のう」そんな甘い言葉を交わしながら、一緒にいることを楽しむ2人。大人になりきれなかった2人の、とても大人な恋の話。

栄は慈雨を思いっきり甘やかす。甘い言葉は無尽蔵に出てくるし、お互いを甘やかすこと限りない。その昔「バカップル」って言葉があったけど、栄と慈雨はまさにそんな感じ。でも、若いカップルに向けられたその言葉とはちょっとニュアンスが違うかな。若くない2人だから、酸いも甘いもつくした2人だからこそ、読んでいて気持ちがいい。軽いのりの甘やかす言葉が心に響く感じがします。


経験は人を学ばせるけれども、強くはさせない。強がる術を身に付けさせるだけ。むしろ、どんどん、私は、臆病者になって行っている。恐いものなしだったころが懐かしい。けれど、もう戻れないし、戻りたくない。臆病者であるのを自覚するからこそ、失いたくないものへの強烈な欲望に身をゆだねることが出来る。経験が仕立て上げた贅沢な臆病者。(文中より)


上記は作中での慈雨が感情です。

臆病だからこそ、失いたくないものがわかる。


詠美さんらしいなぁ・・・。

詠美さんは年を重ねて、ますます魅力的な人間になっているような気がします。

自分の男を甘やかすこと、私ももっと徹底的にやってみようかな。

そしたら、栄と慈雨みたいに、いつまでも幸せで仲良しでいられるのかも。


タイトル:無銭優雅

著者:山田 詠美
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失われた町 / 三崎亜記

となり町戦争 を書いた三崎亜記さんの長編第2作目です。前作では不思議な目に見えないとなり町との戦争を描いていましたが、今回も同じく町が中心になってます。しかも、今回は町が失われてしまうのです。ひっそりと、音もなく。その町に住んでいる人々は一緒に失われます。町の消滅と一緒に・・・。

相変わらず「この人の頭の中はどうなっているんだ??」と聞きたくなるような不思議な設定で、読みながら何度も驚かされました。


30年に一度、突然前触れもなく町が消滅する。それはとても静かな消滅。ひっそりと町の住民が消滅するのだ。それはいつ・どの町でおこるのか誰も知らない不思議な出来事。町で失われた人々を悲しむことによって消滅が広がってしまうので、管理局によって町に関わるものすべて(町の名前や町に住む人々の名前等)が集められ、悲しむことは禁止される。大切な誰かを失った人、帰る場所を失った人。たくさんの悲しみをかかえた人たちによって、消滅を食い止めることができるのか・・・。

失われた町「月ヶ瀬」に集まる、失われた人々の話です。章ごとにいくつかの時代があり、出てくる人物は重なっていますが時代ごとに主人公が変わっていくスタイルの書き方です。前作「となり町戦争」でストーリーはおもしろかったのにも関わらず、人物描写が弱くて入り込めなかった私ですが、今回はだいぶよくなっていた気がします。(なんとも偉そうな発言!?)


相変わらずSF的な設定がおもしろい。建物は残るのに、町の人だけがひっそりと消滅してしまうという不思議な出来事。そして、その消滅をなんとか食い止めたいと願う人々のとても強い思いが伝わってきました。自分の命に代えてでも消滅をなんとか解明したいと願うたくさんの人がいて、その願いはとても悲しくて切なくてつらいものでした。ここまで様々なものを犠牲にしても戦える一途な強さがうらやましいと思うくらい。


主人公の1人である桂子さんは、とてつもなく心の強い人です。彼女の場合は強くならざるを得なかったという部分もあるのかもしれません。様々な理由で・・・。(この辺はネタばれになってしまうので詳しくは書けませんが)


たとえ明日失われるとしても、その瞬間まで自分の為すべき事をして、

生き続けようと思います。

望みは、きっと誰かがつなげてくれると思っています。


これは作中に出てくる桂子さんの言葉です。

願いは、自分がいなくなったとしてもきっと誰かがつなげてくれる。

自分の知らない人かもしれないけど、誰かがどこかできっと。


正直なところ、私はどちらかというと「自分1人で頑張っても何も変わらない」と思って行動しない人なのですが、こういう考え方もあるんだなぁと驚かされました。思いは誰かがつなげてくれる・・・。そう思いながら行動できたら、素敵なことなのかも。


タイトル:失われた町
著者:三崎 亜記
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パパとムスメの7日間 / 五十嵐貴久

パパと高校生の娘が人格が入れ替わってしまったという設定の本です。入れ替わりってありきたりな設定ともいえますが、このパパとムスメの関係がほのぼのとしていたので楽しむことができました。 パパはムスメをとっても愛しているんだけど、ムスメは父親がわずらわしい頃。そんな頃って誰でもありますよねー。ちょうど微妙なお年頃なんです。私的には高校生からは遠くなってしまったけどムスメの気持ちもわかる、パパの気持ちもなんとなく理解できるってところで両方の感情を楽しむことができました。


ムスメの小梅は16歳。かなりいまどきな女子高生で、携帯命!憧れの先輩もいる。そしてパパは47歳、中間管理職のサラリーマン。どちらかというと事なかれ主義で、決断力に欠けるので会社でも出世は望めない存在。2人は日ごろ顔を合わせても言葉を交わすことすらない。それどころか、パパの入ったあとのお風呂は嫌とか、一緒に食事もしたくないなんて言ってしまうような関係です。そんな2人が入れ替わってしまい、お互いの日々を変わりに過ごすことになった。いったいどうなってしまうのか!

父親と娘の心が入れ替わってしまい、女子高生の体に47歳のパパが、そしてパパの体に16歳の小梅が入ってしまうんです。普段は会話すらない親子だったのに、お互いの生活をなんとか維持させるために会話をして情報交換したりするようになるんです。そりゃ必死ですよね。小梅は友達に変だと思われたくないし、憧れの先輩からも変な目で見られたくない。父親の方も会社で16歳の娘が何をしでかすか心配ですもん。ましてや、もうすぐ新商品のプロジェクトも佳境に入り、大事な会議も控えているんですから。必死にお互いのことを覚えてもらおうとしている姿は、なんだか見ていてほっとさせられるというかほのぼのさせられる感じですよ。今まで理解しあうことができなかった2人なのに、今はお互いの日常を見て、お互いのことを考えている。なんかいいですよね~。


このパパがまた優しいんですよ。本当に娘を愛しているんだなぁって感じるんです。例えばね、お風呂とか着替えとかって困るじゃないですか。特に娘の体に入ってしまったパパの方が。もちろん娘はパパに見られたくないわけです。だから「目隠しして着替えて!」なんて無理な注文を出すんです。それをパパの方はちゃんと受け入れる。「赤ちゃんの頃から見てるんだから、娘の裸なんてたいした問題じゃないだろ!」って言ってしまわないところが優しい。娘の気持ちをちゃんとわかってあげているんですよね。うまく娘とコミュニケーションがとれなかっただけで、本当はとても娘のことを考えているパパなんだって伝わってきます。


ラストでお互いの体が戻った後の関係も素敵。

どんな風にいいのかは、読んでのお楽しみってことにしておきますね♪


タイトル:パパとムスメの7日間
著者:五十嵐 貴久

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ぬるい眠り / 江國香織

文庫の新刊です。ここのところ東京タワーなど夫婦を書いたものが多かったのですが、どうも私にはしっくりこなくて・・・。でも、久々に「あぁ、昔の江國さん風だぁ」といった作品です。なので以前の江國さんの作品が好きな人にはかなりオススメ。ところが、なんでいきなり昔風なんだろーと思っていたら、実はこの短編の多くは江國さんが20代前半の頃に書いたものの寄せ集めなんだそうです。どうりで!と納得。


この本には9つの短編が入っているのですが、「ケイトウの赤、やなぎの緑」は「きらきらひかる 」という作品の主人公たちが10年後という設定で登場します。睦月、笑子、紺くんの3人が主人公ではないのですが少しだけ登場するのがとても懐かしい気持ちになりました。 あとがきで江國さんが自分の小説の登場人物が、「その後もどこかで何とかやっている」と考えることが好きと書いています。ケイトウの赤、やなぎの緑はそんな江國さんの「何とかやっている」がちらりと見えた作品でした。

ラブ・ミー・テンダー

 エルヴィス・プレスリーに恋をした母。
 毎晩電話をくれるエルの愛に応えるため離婚するといいだして・・・。

ぬるい眠り

 別れた彼のことが忘れられずに眠れなくなった雛子

放物線

 大学時代の奇妙な友情

災難の顛末

 起きたら右足が1.5倍に膨れ上がっていた!

とろとろ

 信二といると幸せ。

 とろとろの恋、とろとろの日々、とろとろの人生。

夜と妻と洗剤

 妻が「別れたい」と言った。夫はそのとき・・・。

清水夫妻

 人の葬式に出るのが好きな奇妙な夫婦と出会ってしまい、

 葬式の楽しみ方を知ってしまった。

ケイトウの赤、やなぎの緑

 博愛主義の不良中年・郎に恋してしまい、離婚してしまったちなみ。

 郎と出会った場所は睦月と笑子夫妻の家。

 風変わりな夫婦の下に集まる風変わりな人たち。

奇妙な場所

 中年の3人の女性が、1年に一度同じ場所で行う奇妙な行動とは。

とても奇妙な人たちや行動。江國さんらしい不思議ワールドな作品です。
久々に江國さんのゆったりとした奇妙な世界を味わうことができて、堪能しました♪

タイトル:ぬるい眠り
著者:江國 香織
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図書館内乱 / 有川浩

図書館戦争 の続編。

図書館戦争で登場したあのユニークなメンバーが、またもや頑張ってくれます。 今回は郁&堂上だけでなく、小牧や柴崎、手塚のプライベートな話もかなり出てきてますますドキドキワクワクします。1章が郁と両親の話、2章が小牧の恋、3章で柴崎の恋、4章であの優秀な手塚よりもっと優秀な手塚のお兄ちゃんが登場。そして最後の5章でどーんと前の4章がつながっていく感じです。ラストで郁の王子様が誰なのか発覚したりして(っていうか、読者はみんな気がついてますよねぇ・・・)、郁の動揺も笑えます。軽い会話で一気にもっていく感じは1作目と同じ感じです。

親に内緒で図書館の戦闘職種についた笠原郁に個人的なピンチが発生。それは両親が郁の職場見学に来ること。上司である堂上や小牧、同僚の手塚や麻子に助けてもらって、図書館特殊部隊に所属されたことを秘密にしたままにできるのか!?良化特務機関に連れて行かれてしまった小牧は大丈夫なのか・・・。柴崎の周りをウロウロする謎の好青年は何者なのか・・・。手塚兄は何者なのか・・・。そして、図書館は大丈夫なのか。

個人的には小牧さんがいい♪今回でますます好きなキャラクターになりました。図書館戦争の時から郁に対していい感じだった堂上は相変わらず。小牧にも柴崎にも恋の相手ができちゃったりするし、手塚にはお兄ちゃんが登場してみたり。本当に軽いノリでドキドキさせてくれる本ですね。


元々熱い男・堂上さんが照れながら郁に言うセリフもいいけど、普段はクールな小牧さんがドキドキするようなことをボソッというのも好き。いや、やっぱり堂上みたいにピンチの時に気がつくと側にいてくれて、優しい言葉をかけてくれるのも捨てがたいかも・・・。はぁ、しばらくはまりそうな予感。早く次作が読みたいです♪


タイトル:図書館内乱
著者:有川 浩
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