活字中毒 -3ページ目

夜は短し 歩けよ乙女 / 森見登美彦

最近時々ネットで見かける「森見登美彦」さんという名前。初めて見たときに「この人の名前はどこで切るんだ??」と真剣に悩んだ私です。blogを読むと評判もよいみたいだし、なんだかとっても気になる方なのでさっそく手にとってみました。
読んでみたら、これがまたとってもまたキュート。愛らしいという表現がぴったりな女の子と男の子の恋愛話でした。舞台が京都というせいもあるのか、言葉遣いもちょっぴりレトロな雰囲気なんです。読んでいてぐいぐいと本の世界に引き込まれるような感じがありました。
彼女こと「黒髪の乙女」の背中を見続けている先輩は、なんとかきっかけを作ろうと偶然を装って彼女の行く先々に登場します。夜の先斗町、神社の古本市、大学の学園祭。そんな2人を待ち受けるのは奇妙な人々と、奇妙な出来事。小さな可愛い乙女の大冒険で訪れる不思議な世界で、黒髪の乙女と先輩は運命によって引き寄せられるのか?

この主人公である黒髪の乙女がとってもかわいらしいんです。天然系とでもいうのでしょうか。おっとりしていて、ちょっぴり思考が間抜けなところが本当に愛らしいんです。読んでいる私も、彼女を好きになってしまったくらい。そして、その乙女の背中をずっと見つめ続けて、なんとか視界に入るべく偶然を装っているのがもう1人の主人公である先輩。彼もある意味で天然のお間抜けさんかも。出てくる人物すべてがなんだかいとおしくなるような作品でした。


ここがいい、あそこがいいとかっていう部分的なものではなく、この本の流れや雰囲気が作るすべてのものがいい♪って感じ。んー、森見登美彦さん、他の作品も読んでみたくなりました。彼の作る作品の雰囲気は、私の好みのタイプみたいです。


この本の公式サイト があるみたいですよ~。
歩けよ乙女


タイトル:夜は短し歩けよ乙女

著者:森見 登美彦

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死神の精度 / 伊坂幸太郎

この本の主人公は死神。死神である千葉が、自分の担当する「死ぬ予定の人」を観察する様子を描いています。設定がなんだか奇抜ですが、これがまたおもしろい。死神っていうとなんとなく私のイメージでは暗くて恐ろしいという感じの印象なのですが、この本に出てくる死神たちはちょっと違う。どちらかというと人間的で感情もあるし、好みもある。もちろん死神なので食欲や睡眠欲といった人間にある普通の欲求はないのですが、彼らにも不満の感情があったりするんです。なので、読んでいるとちっとも恐くなくて、たんなる「死神」という職業の人という印象です。

死神に目を付けられてしまった6人のストーリー。死神である千葉は情報部から依頼された人間を調査して、1週間後に死を迎える人間として「可」「見送り」の判断をする仕事をしている。趣味は音楽を聴くこと。死神である千葉が出会った6人の人間は、8日後に死ぬのか、死なないのか・・・。いったい死神は何を思って仕事をしているのか・・・。

死神の仕事がターゲットである人間に接触して会話し、この人間が死ぬべき人かどうか決めるというシステムだからおもしろい。伊坂さんの頭って本当に不思議な発想でいっぱいですよね。いつも彼の作品を読むたびに驚かされます。この死神の仕事は基本的にほとんどの人間は「可」になって8日目には死ぬことになるのだけど、それを見送ることもできるんです。それを決めるのは担当している調査部の死神しだい。何を基準にするかも、担当の死神しだい。死神にも感情があるわけです。クールなのに、意外と情にもろい部分なんかもあったりして死を書いているわりには読み心地が爽やかな感じです。


しかも、死神である千葉は人間の風習や言葉遣いが微妙に理解できてない部分があり、不思議そうに聞き返したりするシーンは思わずくすりと笑いたくなる感じなんです。本人は真剣なだけに、よけいに面白みが増すというのでしょうか。相手は死神ってわかっていてもなんだかこの千葉さんがかわいらしい男性に思えて、読み終わる頃にはすっかり好きになってしまいました。6つの短編なのに、微妙にリンクしている辺りも伊坂さんらしくておもしろかったです。


死神・千葉さんのシリーズをもっともっと読んでみたいなと思わせる作品でした。続編でないかなぁ。


タイトル:死神の精度

著者:伊坂 幸太郎

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フィッシュストーリー / 伊坂幸太郎

伊坂さんの13作目にあたる作品です。タイトルのフィッシュ・ストーリーはホラ話大げさな話作り話という意味を持つ単語。まさにこの本にぴったりのタイトルだった気がします。短編が4つで、それぞれは別のストーリーになっています。ですから、長編のような伊坂ワールドを堪能できるほどのパワーは感じませんでした。でも、これはこれ。相変わらず伊坂さんらしい、不思議で優しい雰囲気が溢れている作品でした。
過去の伊坂さんの作品に登場した脇役たちが登場するという点でも話題になっていますが、私は「んー、この人ってどっかで出てきたかなぁ・・・」というレベルで、唯一わかったのは黒澤さんのみというお粗末な記憶力でしたが、本書そのものは問題なく楽しめましたよ。でも、覚えているともっと楽しめたのかな?という気もしました。

「動物園のエンジン」

伊坂さんのデビュー第1短編。地下鉄にゆられながら、昔の不思議な記憶を思い出す。真夜中の動物園でうつ伏せに眠る永沢さん。彼が動物園にいるというだけで、なぜか動物園全体にエンジンがかかったみたいに嬉しそうに震える。
「サクリファイス」

頼まれた人を探して、山奥にある小暮村へ向かった黒澤。そこで古くから伝わる「こもり様」という風習にまつわる騒動に巻き込まれてしまう。
「フィッシュストーリー」

表題作。売れないロックバンドが「僕の孤独が魚だとしたら」という一節で始まる小説を歌詞にした曲を作り、謎の無音な間奏が入ったレコードを発売する。このレコードがめぐりめぐって、時代を超えてたくさんの人の命を助けることになる。
「ポテチ」

主人公は間抜けだが優しい空き巣の今村。そして、脇役はサクリファイスでも登場した黒澤。空き巣に入った家で留守電に吹き込まれた「自殺する」というメッセージ聞いてしまい、まったく他人なのに助けに行ってしまう今村。同じ日に生まれた野球選手の尾崎が気になっていて・・・。

表題作でもあるフィッシュストーリーは二十数年前、現在、三十数年前、十年後と時代が4つ登場します。キーワードは正義。この正義がいいんです。大きくてあからさまな正義じゃなくて、どちらかというと小さくて謙虚な正義。父から「正義の味方になれ」と育てられた青年がいるんです。正義の味方というと、ついつい警察官や消防士のような職業を思い浮かべてしまうのですが、彼のお父さんは違う。「大事なのは職業や肩書きではなくて、準備だ」というんです。心と体の準備ができていれば、そういう肩書きや職業がなくてもいつでも正義の味方になれる。すごい発想ですよね。私も息子たちに「正義の味方になれ」と育てようかな。


そして、小説の一節として出てくる「僕の孤独が魚だとしたら、そのあまりの巨大さと獰猛さに、鯨でさえ逃げ出すに違いない」というフレーズが、「孤独」の部分と共に形を変えて何度も登場するんです。そのひとつひとつが心に残る感じで、伊坂さんの言葉遊びはいい!と感じさせてくれます。相変わらず伊坂さん、うまいです。


タイトル:フィッシュストーリー
著者:伊坂 幸太郎
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図書館危機 / 有川浩

図書館戦争シリーズ第3弾です。図書館戦争図書館内乱 ときて、次は図書館危機。危機ってくらいなので、もちろんお馴染みの図書館が危機に陥ります。郁が成長して、ますますおもしろくなっていました。郁ってばかわいいなぁ~と思ったり、あまりの幼さにこっちまで照れちゃう事もあります。 相変わらず恋愛がメインではありますが、今回はかなり考えさせられる部分もありました。


前作で自分の王子様が、実は上官の堂上だったと知らされた郁。衝撃を受けつつも、自分が堂上に恋心を抱きつつあるのに気がつきます。当然、動揺する郁。そんな郁の乙女心とは別に、やっぱり図書館にはトラブル発生。昇任試験で郁や手塚がピンチになったり、メディア良化委員会によって規制されている言葉でもめたり、郁の実家がある茨城県立図書館へ派遣されて図書館を守る戦いをしたり・・・。 ラストは驚きの展開です。図書館大丈夫なのか??

ということで、基本的には前作2つと同じくラブコメがメインです。郁が堂上に恋していることに気がついちゃったとか、堂上もかなり優しい感じだし、手塚と柴崎もかなり気になる状態になってきたし・・・と、恋愛も気になるところ。


私が今回一番気になったのは第3章の「ねじれた言葉」です。世相社の折口が取材したインタビュー記事で自分のおじいちゃんの話をするのに「床屋」という言葉が使われていたんですけど、これが検閲対象なので「理容師」という言葉に置き換えていたんです。でも、これが問題になります。そりゃそうですよね。インタビューされた側は日常に使っている言葉だから、それが造反語だなんて思ってない。でも、実際にはメディア良化委員によって造反語と認定されてしまっているので検閲にひっかかるために使えない。差別だからと擁護されているはずの側が、実はその言葉が差別用語だということすら知らなかったという話。


こういう言葉って実際にいくつかあるのは知っていました。放送禁止用語 ですよね。床屋という言葉がなぜいけないのかという部分にはちゃんと理由があるんですけど、実際の床屋さん本人が問題ないと思っていても、周りで「この言葉は差別用語だ」って言うのって本当におかしいと思います。もちろん中には本当に使ってはいけない言葉だってあるとは思うのですが、どうも敏感になりすぎてません?って思う部分もあると思うのです。本人が差別されていると感じていると感じているわけでもないのに、勝手に周りが差別だからって認知してしまうのってどうなんでしょう。私は逆にそういう意識の方が差別なんじゃないかなぁなんて思ったりもします。← 私は出版禁止になっていたちびくろさんぼ の本を思い出しましたよ。


図書館シリーズもあと1冊で終わりの予定。

このメンバーがどんな終わりを迎えるのかものすごく楽しみな反面、もっと続けて欲しいなぁという気持ちもあります。どんな風になるのか楽しみです♪

タイトル:図書館危機
著者:有川 浩
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東京タワー オカンとボクと、時々、オトン / リリー・フランキー

リリー・フランキーさんってなんとなく不思議な印象のおじさんというだけの存在でした。テレビに出ているのを見ても、奇妙な発言が多かったりしてそういう人っていう印象しかなかったんですよ。うちのダンナなんて「あの人、ホモじゃない?」なんて失礼なこと言ってたし。(リリー・フランキーさん、ごめんなさい。)


この東京タワーという本の評判は聞いていて「いい」っていうしなぁ・・・。でも、どうかなぁ・・・と思いながら読んでみました。


結果・・・。

いいです!


この本はとてもいいです。何がいいって、リリー・フランキーさんのオカンへの愛がすっごく感じられていいってのもあります。本当に時々出てくるオトンもいい味出してるし。でも、それ以上に私は彼の言葉の選び方がとても好きだと思いました。読んでいて気持ちが良い言葉の流れみたいなものがあるので、続きが読みたくてあっという間に読み終わってしまったんです。


ストーリーはご存知の通り、リリー・フランキーさんご自身の話。自分のオカンにまつわる話が書かれている本なのです。これがまた愛情たっぷりで、息子を持つ母な私としては「ここまで愛されてればオカンも幸せだったろうなぁ」って思うくらいです。っていうか、うちの息子たちもリリー・フランキーさんみたいに成長しても私のこと愛してくれるかしらと願いたくなるくらい。たぶんリリー・フランキーさんってマザコンですね。でも、悪い意味じゃなくていい意味で。母親がいないとなにもできない&頭が上がらないタイプのマザコンはちょっと・・・って思うんですけど、リリーさんみたいなタイプのマザコンだったら全然オッケーです、私。彼のような人は、オカンに限らず自分に関わる人間をとても大切にする人だと感じました。


オトンの人生は大きく見えるけど、オカンの人生は

十八のボクから見ても、小さく見えてしまう。

それは、ボクに自分の人生を切り分けてくれたからなのだ。(本より抜粋)


母親ってそんなもんですよね。絶対的な無償の愛。

オカンの息子に対する愛。

息子のオカンに対する愛。

なんだか心がほっこりと暖かくなるような一冊でした。



タイトル:東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~
著者:リリー・フランキー
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